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シンポジウム
「高所登山における突然死を考える」
開催される




シンポジウム「高所登山における突然死を考える」開催される

野口 いづみ
 8月8日、四谷駅前のプラザ・エフでシンポジウム「高所登山における突然死を考える」が、日本山岳会海外委員会・医療委員会・指導委員会、日本登山医学会、日本山岳ガイド協会の共催によって開催された。会場には183名が参加し、大変盛況であった。申込者の増加に伴い、広い会場へと3回ステップアップしなければならなかったということで、関心の深さがうかがわれた。


 (プログラム)
イントロダクション:増山茂
1.古野淳「背景の説明」
2.増山茂「3つの課題の設定」
3.大蔵喜福「今回の事故の経緯を振り返って」
4.池田常道「エベレスト公募登山の問題点」
5.山本正嘉「なぜ70歳の人でもエベレストに登頂できるのか?:運動生理学の立場から見たAG戦術の合理性と問題点」
特別発言:磯野剛太、谷口ケイ
6.増山茂「山で突然死なんてホント?」
7.上小牧憲寛「なぜエベレストでヒトは突然死ぬのか:昨年の登頂経験から見た大蔵戦術」
特別発言 越智勝治 「南極における特異な不整脈の経験」
堀井昌子 「出発前にできることは何か」
8.重広恒夫氏「オーソドックス戦術の経験者からみた大蔵戦術」
特別発言:加藤慶信
9.討議

 (内容報告)
座長の増山茂氏と古野淳氏 最初に増山茂氏によって、本シンポジウムを開催するに至った契機は、公募隊であるアドベンチャーガイド(大蔵)隊における5月のエベレスト登頂直後のI氏の突然死であると述べられた。古野淳氏続いて古野淳氏が、背景である商業公募隊の歴史的経過を概説した。商業公募隊は1991年から行なわれるようになったが、1996年の難波康子氏を含む大量遭難で批判が集中した。しかし、公募隊は盛んになり、現在では主体になっている。エベレスト登頂者は世界で3565名、このうち日本人は129名、のべ146名(女性は10名)で、7名が下山中に遭難死している。日本人の平均年齢は38.5歳だが、最近5年間では45.0歳である。高額公募隊の特徴は衛星通信機器を用いて気象情報を入手、ルート工作・荷揚げ・酸素ボンベの供給などである。低予算公募隊はネパール人が経営しており、レベルの高い登山者向けである。商業公募隊での死亡は4例である。大蔵隊では6500mに上がったあと一度もBCまで下山せずにアタックしたが、過去の事例ではこの高度に10日以上滞在した例はないと思うので驚いたと述べた。
増山茂氏 増山茂氏が課題として、@突然死と高山病死、A大蔵隊の問題点、B商業公募隊の問題点として3点を挙げ、古野氏から大蔵氏に具体的な質問が提示された。“@9日間ABCに滞在したがBCでの休養が必要だったのではないか、A大蔵氏はガイドだったのかリーダーだったのか、B酸素の量は十分で管理は良好だったのか、C事前のクライアントの検診の結果はどうだったか、D22:00からのアタックで14時間行動は高齢者には無理なのではないか、E突然死におけるガイドやリーダーの責任をどう考えるか”などだった。

大蔵喜福氏 大蔵喜福氏は、「今回の事故の経緯を振り返って」として16分間、講演した。出発から登頂まで32日間の速攻だったが、事前の順化活動を十分に行なった。また、6500mに9日間滞在したが、悪影響があると考えられず、休養下山はクライアントと相談の上行なわなかった。全身的な状態は、検診とトレーニング施設での結果を参考にしたが、異常の指摘はなく、大きな病気や内服薬はなかった。アタックについては前日の14:30にC3に着き、休養が十分取れた。クライアントは二人とも経験者なので、アタック前にいろいろ取り決めをした。酸素は高齢者では少なめで良く、酸素流量はC3からは行動中は2l/分、疲労時やレスト時には3l/分、酸素圧は220気圧以上で使うとした。ガイディングについては、指示できる距離にいることが好ましいが、クライアントによって歩く速度が違うなどの問題があるので、モチベーションを高めるために自分が先に行くことにした。第2ステップでI氏にアイゼントラブルがあり、残念ながら1時間ずれが生じてしまった。また下山時は自分が先に降りて第2ステップで待つことにした。水分摂取については飲量は把握していないが、携行している水分はチェックした。アタックの出発は22:00だが、早い隊は21:00だった。自分は6:50に登頂して1時間待ち、下山した。下山時にI氏とすぐ会ったので、早いので驚いた。第2ステップを下ったときにトランシーバーでI氏の突然死の連絡があった。野口健隊に死亡の確認を依頼し、8810mにいたクライアントの女性F氏は相当疲れていたので、了承を得て、すぐ下山させた。F氏はC3に16:30に安全を確保しながら下山させた。F氏は意識は明確だった。I氏の動脈血酸素飽和度はABCで88%、C1(7000m)は無酸素で80%位で、問題なかったと報告した。

池田常道氏 池田常道氏は「欧米登山界から見た日本人高齢者登頂のとらえかた」として約10分、講演した。登山隊は有力公募隊、中小公募隊、小人数隊、従来型の単一チームに4分類されるが中小公募隊に事故が多い。日本人エベレスト登山者の一般的特長は、高齢者が多いことと、酸素への依存が大きいことである。今回の事故について、事故の内容、酸素の吸入法、体調、登山経験の内容について詳細は不明なので推測は困難であり、今後の検討が必要である。エベレストの有力公募隊では技術、体力、経歴について厳しくチェックしている。今後、さらに公募隊が発展するために、主催者側は高所登山がガイド登山の概念からはずれたものであることを説明する必要であると指摘した。

磯野剛太氏 磯野剛太氏はガイドの立場からコメントした。“公募”という名称は優位な人材が集められるという錯覚を与えやすいが商業募集登山というのが明確だと思う。ガイド登山にはエベレストに限らずリスクがあり、ガイドに一定の責任があるが、同時に明確な認識を顧客に与えることが必要である。カナダでは裁判権の放棄まで明示した契約が行なわれているが国内ではそれは不可能であり、今後、考えていかなければなければならない問題であるなどと述べた。
谷口ケイ氏
 ついで、野口健隊の隊員である谷口ケイ氏が発言した。谷口氏は公募隊が多いことに驚き、有意義なシステムと考え直したが、隊によるタクティクスの多様さも感じた。クライアントは他人任せにすることなく、自分に合った公募隊を責任を持って選んでほしいいし、リスクを認識してほしいと発言をした。
山本正嘉氏 山本正嘉氏は「なぜ70歳の人でもエベレストに登頂できるのか?」というテーマについて、14分運動生理学の立場から検討を加えた。高所登山を高度順化と体力の要素に分けて考える必要がある。高度順化については、酸素をうまく使えばエベレストでも6000m台の登山と同じになり、体力については1日あたりの運動量は意外に少ない。日程的には、低酸素室で高所順応を早期から始めており、高所で加圧バックに入っていることは逆順化トレーニングになる。本メソッドは、従来の順応の概念とは異なるが、現地で高所順応に費やしていた時間を代替している。また、高所に長く滞在しないことは、筋肉量が落ちず、血が濃くなり過ぎない(赤血球が増えすぎない)メリットがある。AGのタクティクスは最先端のスポーツのタクティクスに共通する点があり、合理的である。他方、誰でも頂上を目指せるようになったが、アタック時には一挙に負荷がかかり、破綻に結びつきやすい。方法論的には、下山が手薄なので、BCへ戻ってくるまでを一連の行動と考えて対策を講じる必要があるとした。

 ここで、増山茂氏が突然死についての知識を整理し、以後、医師による専門的な演題が3演題続いた。

上小牧憲寛氏 上小牧憲寛氏は「なぜエベレストでヒトは突然死ぬのか」というテーマで、昨年の登頂経験をふまえて高所での突然死について解説した。突然死を起こす登山者は高齢であるが、高所では血管収縮や血圧上昇が起こりやすく、突然死を起こしやすい。防止策として、生活習慣に留意して血管のアンチエイジグをはかること、検査は限界まで負荷を加えたものをすることである。高齢になるほど動脈硬化に起因する心筋虚血による不整脈や心筋梗塞、脳梗塞などのリスクが高くなり、突然死の可能性が高くなる。60歳以上の者が高所登山をする場合は、突然死の危険が強いことを本人と家族に説明して承諾を得る必要があると明確に述べた。

越智勝治氏 次に、越智勝治氏が「南極における特異な不整脈の経験」を報告した。南極のドームふじ基地で低圧低酸素低温環境下にさらされた隊員が、一過性の徐脈性不整脈(房室ブロックのMBU型)を生じたが、平地へ搬送したところ消失し、帰国後の検査でも異常はなかったという。堀井昌子氏宇宙ステーション滞在中にも不整脈の報告があるとのことだった。


 次に堀井昌子氏が「出発前にできることは何か」というテーマで発言し、事前のメディカルチェックが必要であることと、日本登山医学会で構築した「登山者検診ネットワーク」について紹介した。
重広恒夫氏 最後に重広恒夫氏が全体をまとめる形で講演した。8000m峰のオーソドックスな戦術について、従来の、負荷をかけながら順応していくタクティクスと、隊員資格について紹介した。次いで、大蔵隊の問題点は順応不足を酸素で補っていることと、隊員の体調をガイドがマンツーマンで管理する必要性、ガイドは最後尾にいる必要があったのではないかなどを指摘した。公募登山隊の一般的な問題点としては、参加者の能力、高所順応、登山装備の高機能化による体力技術の不足、高所ではガイドも極限状態である危険性を指摘し、さらに山岳ガイドの職業倫理と、リーダーとガイドの違いについて言及した。
加藤慶信氏
 加藤慶信氏が重広氏の発言を受けて、昨年のマナスル登山のガイドをした折の体験をふまえ発言した。加藤氏は、クライアントの体調を細かくチェックし、ロープを常に結んで安全を確保して登ったという。安全の確保については、今後も考えていきたいという。
 最後に高山守正氏からのコメント、I氏の死因は不整脈死の可能性が高いが、事前の診断は難しく、高齢者のヒマラヤ登山には死を覚悟する必要がある”が、読み上げられた。左から上小牧・大蔵・重広の各氏増山氏は総括として、オーストリアの登山中の突然死についての報告を紹介した。突然死は初日の午前中に多く、水分摂取に注意すること、リスクファクターは心筋梗塞、狭心症、高血圧症、糖尿病などで10〜92倍にリスクを高めること、予防として年に2週間以上登山やハイキングをすること、週に1回以上高度な運動を継続することという。山本氏(右)と池田氏(左)上小牧氏から日常的に激しい運動をしておくこと、山本氏から危険性を意識することが必要であるなどの発言があった。客席からの質問としてクライアントを置いてガイドが1時間以上先に登頂することの是非、加圧バッグ(ガモフバック)の効果などについての質問があった。大蔵氏から、太田さんの事故があった場所で安全を図りたい気持ちが強かったということと、加圧バックについては、もっと使いたかったという発言がされた。

 本シンポジウムのテーマは、商業公募隊の特性という社会的なテーマと、高所での突然死という医学的なテーマの2点だった。両テーマとも内容的に重要な問題が多い上に、講演者が多い印象もあり、結論は出なかった。商業登山の隆盛の中で避けて通れない課題であり、問題提起をしたという意義は大きい。今後、十分な時間をかけて討議されることを期待したい。

>>日本山岳会会報「山」2007年11月号掲載の補足解説<<




  

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