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シンポジウム「高所登山における突然死」を考える
| 日本山岳会会報「山」2007年11月号掲載 |
シンポジウム「高所登山における突然死」を考える |
野口 いづみ |
| 先月号で報告したように、増山茂氏と貫田宗男氏の尽力によって、8月にシンポジウム「高所登山における突然死を考える」が開催された。今回、シンポジウムに沿って内容を検討したので、前号の報告と併読していただきたい。テーマは、医学的なテーマと商業公募隊という社会的なテーマも2点だ。 高所で病死というと以前は急性高山病が原因と思われていた。しかし、最近、急性高山病が死因ではない突然死の報告が目立つようになった。突然死とは、内科的な病気によって予想しないとき急に死亡することである。数分以内に死亡する瞬間死または突然死と24時間以内に死亡する急死に分けられる。主な病因は、心疾患(心筋梗塞や不整脈)によるものが6割前後、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血)が2割前後、その他は大動脈の破裂などと、血管の病気で多い。突然死が増加したのは、以前よりも高齢者が高所登山をするようになったためと考えられる。エベレストに登頂した日本人の平均年齢は38.5歳だが、最近5年間では45.0歳である。 突然死の頻度は、一般には1000人集まる所で1年に1人とされ、年間2万人以上だが、山では発生頻度はその2.5倍である。ハイリスクは55歳以上の男性で、高血圧、高尿酸値、肥満、心疾患、ヘビースモーカーなども危険を高める。登山では運動負荷によって心臓はオーバーワークの状態だが、高血圧症や心疾患のある登山者では安全の上限までの余裕が少ない。これらに加えて、高所では気圧が低く、酸素が薄く、気温が低い。これらの条件は突然死の原因となる心筋梗塞や不整脈を引き起こしやすくさせる。しかし、高所でどの程度、突然死が増えるのか、どのような死因によるものかについては未検討である。 エベレスト登頂直後に突然死したI氏について、大蔵喜福氏は既往歴に問題はなく、登頂時も体調に異常がなかったと報告した。南極越冬隊の越智勝治氏は、低圧低酸素低温下で不整脈を起こしたが、常圧環境下では消失した隊員について報告し、循環器内科医師の高山守正氏はI氏の死因が不整脈の可能性が高いとコメントを寄せた。高所環境で不整脈を起こしやすい者が存在し、そのような者が高頻度で突然死を生じる可能性も考えられる。 60歳を過ぎれば呼吸循環器系などの慢性的な疾患を有している者も少なくない。しかし、残念ながら中高年登山者にその自覚が薄い。高所での死亡事故は遺族にとっても納得のいかない事態になる場合もある。上小牧憲寛氏は、高齢になるほど突然死のリスクが高くなることを啓蒙する必要があることを指摘し、危険が高いことを本人と家族に説明する必要があると述べた。対応策は登山前に健康診断を受けることであり、日本登山医学会の堀井昌子氏らが構築した「登山者検診ネットワーク」が有効に機能することが期待される。反面、I氏の例が示すように、事前の診断は必ずしも確実とは言えず、限界があるのも事実である。高山氏と上小牧氏が厳しい指摘をしているように、高齢者が高所登山をする場合にはそれ相応の覚悟が必要といえるだろう。 大蔵隊の順化行動について、古野淳氏が不十分であった可能性を指摘したが、山本正嘉氏は、大蔵戦略は従来の順応の概念とは異なるが、高所に長く滞在しないことは筋肉量が落ちず、赤血球が増えすぎないメリットがあり、合理的であるとバックアップした。今後の実績の集積を待ちたい。 商業公募隊については、池田常道氏、磯野剛太氏、谷口ケイ氏は、メリットは大きいが、クライアントがリスクを自覚する必要性があることを指摘した。重広恒夫氏は、公募登山隊では参加者の能力が不足している場合があることと、ガイドも極限状態である危険性を指摘し、さらに山岳ガイドの職業倫理とリーダーとガイドの違いについて言及した。加藤慶信氏はクライアントの体調を細かくチェックし、ロープを常に結んで安全を確保して登った経験について述べた。ガイドとクライアントの関係、安全の確保について、考えさせられた。 今後、登山者の高齢化に伴う突然死増加の問題、参加者と商業公募隊の問題、さらにこれらの関係について検討が必要だろう。 |
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