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山本正嘉氏講演会
登山のためのトレーニング
─どのように体力をつけ、膝・腰痛を予防するか─
開催される




山本正嘉氏講演会「登山のためのトレーニング
─どのように体力をつけ、膝・腰痛を予防するか─」開催される

野口 いづみ
 2007年2月20日、東京体育館において日本山岳会医療委員会主催講演会「登山のためのトレーニング─どのように体力をつけ、怪我、膝・腰痛を予防するか─」が開催された。演者は鹿屋体育大学の山本正嘉氏で、山本氏は日本の登山の運動生理学の第一人者であり、アコンカグア南壁やチョーユー無酸素登頂などをされた登山家でもある。司会は整形外科医であり、「ひざの痛みを治す」の著者である大森薫雄氏が担当した。
左:司会の大森薫雄氏  右:演者の山本正嘉氏
 講演は体力不足や、膝・腰痛に悩む、主として中高年登山者の関心を引き、会場は135名の参加者で満席だった。イントロとして、氏の卒業した東大では運動部のOBの中で山岳部のOBが高齢になっても足腰がしっかりしており頭がクリアーであるというという話が紹介され、“登山は健康に良いという”基本的発想が確認された。

 講演のテーマは4テーマに分けられ、まず1番目は「登山は健康に良い」というテーマだった。登山はウオーキングよりも心肺機能と脚筋力を鍛える効果が強く、最高のエアロビクスであることを指摘した。

 2番目は「転倒事故を防ぐというテーマだった。遭難事故の2/3が転滑落であり、「中高年」、「下り」、「転ぶ」が3つのキーワードで、脚力の衰えた中高年の下山時に転倒事故が多いことと、それを防ぐ重要性を強調した。トレーニングはそのための役に立っているのかという検証の結果は衝撃的だったようだ。というのは、8割の人が実行しているウオーキングや短時間の階段登りは登山にはほとんど役に立たず、筋力トレーニング、ジョギング、坂道ウオーキングが効果的とされたからである。スクワットは大腿四頭筋を鍛え、「最初は10回×3セット、馴れたら15回×5セットを週に3回程度」行なうようにと、実演をしながら説明した。また、ジョギングを急に始めると膝などを痛める逆効果になるので、注意が必要である。ウオーキングには坂道や階段上りを取り入れると良いとのことだ。
 3番目のテーマは、体の故障、特に膝痛と腰痛などの「故障を防ぐ」対策についてであり、これらを予防し、直すにはどうしたら良いかについてだった。概要は次の通りだった:最近の研究の成果として、登山者は脚力と腹筋力は同世代の人と比較すると16〜41%も優れている。トラブルを起こす人と起こさない人の体力差はあまりなく、故障やトラブルは体力不相応の山に無理して行くことによって起こる。ランク制をしいている山岳会ではトラブル発生者が少ない。したがって、トラブルを避けるためには、山のランクを落とすか、痛みを避ける工夫をするか、どちらかが必要である。対策として、@筋力トレーニング、Aストレッチング、Bサプリメント(グルコサミン、コンドロイチン)、Cストック、Dサポーター・サポートタイツ、E足底装具(靴のインソール)がある。@筋力トレーニングは内側から関節支持筋を強化できる。登山にはスクワットが最適である。現在、膝痛のある人やリハビリの人のためのトレーニングとして、座位やあお向けで足先を挙げて維持する方法もある。腰痛は腹筋の筋力低下と腰背筋の柔軟性の低下が原因なので、腹筋運動やストレッチングが効果的で、腰サポーターは長時間移動中の使用が勧められる。A筋力トレーニングは週3回程度だが、ストレッチングは柔軟性の確保になり、毎日行う必要がある。腰周りの筋肉の柔軟性を確保して、関節のストレスを緩和することが重要。Bサプリメントのグルコサミンとコンドロイチンは軟骨の形成を促進させる。3ヶ月は続けるように。C登山時の注意点として、ストックで衝撃を緩和できる。D下肢サポートタイツは外側から関節支持筋を強化できるうえに保温効果がある。E靴のインソールは骨と関節のアラインメント(配列、並び具合)を矯正する作用がある。氏の場合は足底内側に立てにパッドを使用し、効果的だった。氏自身、数年前は膝痛のために登山をあきらめなければならないかと思ったそうだが、これらの工夫によって登山時の膝痛は直り、ストックを使わず済むようになったとのことで、説得力があった。

 4番目に体力トレーニングとそれが三日坊主にならないための工夫をあげた。ただのウオーキングでは心拍数の上昇が少なく登山のためのトレーニングにはならず、坂道ウオーキングは心拍数をあげ、脚力を鍛える効果が大きい。階段登りなら150m以上、15分以上する。自転車でも坂道を取り入れ、下りの脚力を別に鍛える必要がある。水泳もスクワットで筋力を鍛える必要がある。ジョギングは少しづつ始める。そもそも、トレーニングとは、身体をある方向へ引っ張っていくということを意味する。とにかく、目的を明確にすることで、登りたい山の固有名詞を入れるようにする。たとえば、キリマンジャロを目標にした場合、「1日の運動時間6時間で、多い日で15時間、歩行距離27km、荷物5kg程度、心拍数110回/分、登高量1000m以上上って2000m以上下る」に対して、今のトレーニングが、「1日に30分、歩行距離3km、荷重0kg、上がり下り0m」であったとしたら通用するはずがないので、どう修正すれば良いか考える。たとえば、「1ピッチ60分以上、6km歩き、5kg以上のザックを負い、心拍数は120回/分とし、坂道・階段登りを取り入れる」と、修正する。つまり、その山をイメージしながら、トレーニングを工夫することだ。たとえば、エベレストを登りたいと考えている三浦雄一郎氏のメニューは、1日に30分〜2時間のウオーキングを1週間で3回程度、荷重は10〜20kg、アンクルウエイト5kgである。トレーニングスケジュールは1週間単位で考えると良い。山に良く行く人は日常のトレーニングは少なくし、あまり行かない人は多くするようにする、複数の種目をミックスする、日によってトレーニングに強弱をつける、登山前日は休養日としエネルギー充填のために炭水化物を多く摂る、登山前日はごく軽い運動をして疲労を回復させる。トレーニングサイクル「PDCA」(Plan Do Check Action)、つまり、目標設定→現状分析→トレーニング実行→登山→反省→改善と、自分の弱点を把握してより良い方向に修正していく、フィードバックする自己管理も必要だ。たとえば、開門岳、谷川岳、剣岳で、“膝ががくがくになったり”、“筋肉痛”、“膝痛”、“むくみ”などが出た場合には、それぞれ、スクワットで筋力をたかめたり、ボッカ訓練をすることが必要であるというように自己分析する。弱点のチェックでは筋肉痛と関節の痛みを区別しておく。
 具体的な提案として、目標とする山のカルテ(標高差などの分析)と弱点チェックシートを作ると良い。そのギャブを発見してどのようなトレーニングをすべきか修正する。目標によってやるべきことは異なるし、個人差もある。人にいわれてするのではなく、自分の身体を自分で分析して修正することが大事で、そうすることも登山の楽しみの一つである。


 (質疑応答)
 “スクワットは100回続けてするのと分けてするのと、どちらが良いか”という質問があった(100回もできるなら、わけることはないのでは???)。山本氏は、「続けてやってつらくなるとポーズがくずれるので、そういう場合は回数を分けることが良い」と答えた。“スクワットのタイミング”については、「自分がやりたいと気にやれば良いが、脂肪がつくのを予防するためには食後にすることが効果的」とのこと。”高所登山のためのトレーニング“については、「時間の都合で講演で触れられなかった」が、「基礎体力と高所での能力は全然別のもので、高所での能力は高所に行かないと身につかない。低酸素室でのトレーニングは有効で、たとえば、4000m程度の山では高度4000mに気圧調整された低酸素室に1時間4,5回入っておけば効果的である」こと、「高所耐性には個人差がある」ことなども触れた。“標高2000m程度でもバランス感覚に影響するか”という質問に対しては、「高山病は酒に酔ったような状態なので人によっては影響する」と答えた。“トレーニングで心拍数を上げすぎることは問題にならないか”という質問に対しては、「220から年齢をひいた数値が最高心拍数で、それに0.75をかけた心拍数に上がる程度のトレーニングをすることが良い」と、述べた。なお、「この数値は体力年齢の若い人では多くなるので、気持ちよく歩いているときの心拍数を参考にして最適な数値を自分で模索する必要がある」とのこと。また、「65歳以上では肺機能が低下してしぼんでしまうので、トレーニングではつらくても多少息を切らすような負荷をかけることが必要」とのことだ。サプリメントについてはグルコサミンの必要性を再び強調した。大森薫雄氏からコメントがあり、「50歳を過ぎると細胞の際勢力が低下しているので、外から軟骨になる成分を追加して、磨り減っている軟骨を修復してあげることが必要である」ことと、膝へのヒアルロン酸などの注入も有効であると補足した。“ストックは1本が良いか、ダブルが良いか”という質問には、「議論があり、どちらともいえない。膝を考えるとダブルが良いが、何かあったときに両手がふさがっているのは問題かもしれない。自分は1本で、ストラップをかけていないで持ち代えるようにしている」と答え、さらに大森薫雄氏が、「1本だけの場合は痛みがある側と反対側の手に使う方が良い」と、補足した。高血圧症患者と登山では、「じっとしているよりも適度な運動をすることが良いので、弱点シートで適度な登山を見極めてすること」を勧めた。筋痙攣には水分と電解質バランスに気をつけるとともに筋力トレーニングも必要とのことだった。最後に司会の大森薫雄氏が、「スクワットと坂道ウオーキングをするようになって、登山が楽になった」という話をされ、終了した。

 わかりやすく、具体的実践的な内容であるとともに、登山をする者へのメッセージ性に富み、大変有意義な講演だった。なお、本稿は3番目と4番目のテーマについて詳しく記した。2番目のテーマについて詳しく知りたい方には氏の著書「登山の運動生理学百科」(東京新聞出版局、¥2000)が参考になると思います。




  

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