[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」






報告・意見・勧告など


海外委員会・医療委員会共催

ジム・ダフ博士講演会
「山岳・辺境における救急医療」
開催される



ジム・ダフ博士講演会「山岳・辺境における救急医療」開催される

野口 いづみ
 海外委員会・医療委員会共催で、ジムダフ氏の講演会が9月20日に東京体育館で開催された。日本山岳会のほか、日本山岳協会、日本勤労者山岳連盟、日本ヒマラヤ協会、日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト(HAT-J)の共催、旅行業ツアー登山協議会の協賛であった。公益性を考え、講演会は東京の後、大阪、札幌の三大でも開催し、参加者合計334名を集め、盛況であった。
 ジム・ダフ氏はイギリス人医師であり、エベレスト南西壁登山隊の隊員などの登山経験豊富な登山家としても高名である。現在、オーストラリアに在住しており、イギリス在住の高齢な母親を見舞うためにイギリスとオーストラリアを往来しており、その途上にネパールやインドに滞在し、医療講習会やポーター人権擁護団体の活動をしている。現在、ゴーキョ谷にポーターの宿泊施設兼高所医学研究施設を建設中である。また、高山病治療に使うプレッシャー・バッグ、PACの考案者として知られ、「登山者・トレッカーのためのサバイバル救急・処置読本」(本の泉社)の著者でもある。
ジム・ダフ氏(左)と貫田宗男(右)
 講演会では氏が参加した7回のヒマラヤ遠征の美しいスライドを使いながら、ウィルダネス・メディスンをわかりやすく解説した。ヒマラヤでよくみられる医学的問題は、病気、暑さ寒さによる障害(熱中症、低体温症、凍傷)、高度障害、外傷であり、病気が多いことが指摘された。病気としては胃腸炎が多く、脱水や電解質バランスの失調、疲労倦怠から登頂失敗にいたる場合もある。低体温症では、疲労倦怠感、震えが生じ、意識障害から転落事故を起こす場合もある。外傷はまれではあるが、深刻な事態を引き起こす場合もある。高所障害は2500m以上の高度で生じ、急性高山病、脳浮腫、肺水腫がある。急性高山病は20−80%でかかり、頭痛、めまい、疲労感、食欲不振などが症状である。高地脳浮腫ではひどい頭痛と運動失調、複視、意識症が生じ、このような症状が見られた場合には高山病は重篤と考える。高地肺水腫では倦怠感とともに息切れや咳などの呼吸器系症状がみられる。肺水腫は脳浮腫の2倍程度生じ、両方あわせると1-2%でおこる。3つの高所障害は軽症から重篤な状態まで多様である。症状を風邪、感染、飲酒、不眠、不調などのためと考えて、致死的な冒険を冒してしまうことになり、注意が必要である。“症状がある場合には高度をあげないこと、改善しないようなら即下山”が鉄則である。高所障害にはPACも有効である。低体温症、高所障害に低血糖と脱水が高地で起こりやすい四重奏である。時間の都合で具体的な医療については著書を参考にしてほしいということであった。
 質疑応答では、高所における血圧上昇、血栓症、PACの利点などを説明した。ダイアモックスについては自分は必ずしも飲むべき薬とは考えていないこと、デキサメタゾンについては速効性はあるが予防的に内服した場合には脳浮腫や肺水腫の症状を隠す危険があるので自分は予防投与はせず救急薬として携行していること、年をとると頭痛が生じにくくなるがそれは脳が萎縮して頭蓋骨内に余裕ができるせいだろうなど、興味の尽きない質疑応答がなされた。講演の最初に氏から、講演内容は「自分の経験した登山の医療である」と言われたが、講演、質疑応答とも、豊富な経験に裏打ちされた話には説得力があった。また、ウィルダネス・メディスンのグローバル・スタンダードの啓発という、講演会の当初の目的にも沿う内容であった。
 講演の後半では、ネパールの山岳ポーターが人権を無視された悲惨な状態にあることを紹介した。トレッキングポーターは低地に住むものがほとんどであり、高所や寒さに特に強い人々ではないとのこと。ジム・ダク氏がいたマナン診療所から数時間の距離のトロンパス(5400m)で高山病のために解雇されたポーターが倒れており、他の隊が診療所へ救助担送したが、救命できなかったという。この事件を契機に、氏は1997年に国際山岳ポーター権利擁護団体(IPPG)を設立したという。IPPGはポーターの処遇改善のための組織であり、5つのガイドラインを示し、協力を呼びかけている。ガイドラインはつぎのようである。
1.  寒さ、雨、雪からポーターを守るため、防寒ジャケット、適切な履物など季節と高度に適切な衣類を供給すること。
2.  きちんとしたシェルター、部屋またはテント、シートと毛布(寝袋)、食物と暖かい飲み物、または料理器具と燃料を供給すること。
3.  ポーターにもあなた自身が期待しているものと同じ程度の医療と保険を与えること。
4.  ポーターが病気、怪我のとき、安易に解雇してはならない。死に至らないために病気や怪我のポーターを、絶対に一人で下山させてはいけない。
5.  ポーターに能力以上の重さを持たせてはいけない。(キリマンジャロで20kg、ペルーとパキスタンで25kg、ネパールで30kgが限界)
 活動は日本では今回、初めて紹介されたが、活動の紹介は来日の目的の一つであるという。欧米では10年前からポーターの処遇の改善の動きが見られ、日本でもこれを機に支部が設立され、貫田が代表になった。
貫田宗男とジム・ダフ夫妻
 なお、本講演会の参加費から10万円をIPPGに寄付した。組織の今後の発展を願うとともに、日本からの寄与に尽力したい。







  

Copyright (C) 2004 The Japan Alpine Club  The Committee of Medicine, All rights reserved.