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日本山岳会100周年記念シンポジウム
山での救急蘇生を考える―いざという時、どうしたら良いか―開催される
| 医療委員会主催シンポジウム“山での救急蘇生を考える”開催される |
野口 いづみ |
| 7月4日東京都体育館において、日本山岳会100周年記念シンポジウム“山での救急蘇生を考える―いざという時、どうしたら良いか―”が開催された。前回と同様に150名弱の参加者があった。司会は増山茂氏が担当した。 最初に野口が、「山での病気と対処」について講演した。現在、山での遭難事故の中で死亡・行方不明者の93%が中高年である。遭難の原因として病気は事故原因の第2位を占めており、中高年者では山での病気に注意する必要がある。登山中は、運動によって血圧が上昇し、脈拍が速くなり、安全限界までの余裕が少なくなり、心臓や脳の病気である、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などが起こりやすくなる。虚血性心疾患と脳卒中のリスクファクターは、高血圧症、高脂血症、糖尿病、肥満などの生活習慣病である。喫煙はこれらの病気の原因になるとともに、急性症状として、血圧上昇、血液粘度の増加、酸素運搬量の低下などをもたらし、登山中の喫煙は有害であり、良いことは何もない。高血圧症は約30%の方がかかっており、動脈硬化を起し、心疾患や脳卒中の誘因になる。 虚血性心疾患である狭心症と心筋梗塞は、冠動脈の狭窄、閉塞、痙攣によって、心筋に酸素不足が生じた状態である。狭心症による胸痛は多くの場合、容易におさまるが、不安定狭心症や心筋梗塞は重篤であり、迅速な搬送が必要な場合が多い。山で出来る処置として、狭心症では冠動脈拡張作用のあるニトログリセリンを、3〜5分間隔で3錠(噴霧剤なら3回口腔内に噴霧)すると改善する。アスピリンは血液をさらさらにする作用があり、心筋梗塞ではアスピリン1/2〜1錠を噛み砕くことで症状が改善される場合がある。 脳卒中には、脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血があるが、症状だけでは専門家でも診断するのが難しい場合が少なくなく、迅速に医療機関へ搬送する必要がある。一過性脳虚血発作を生じた2例を提示したが、一過性脳虚血発作は本格的な脳卒中の前触れと考えられるので、下山後のメディカルチェックが必要である。また、酒、食事、入浴は血圧を低下させる3拍子なので、飲酒・摂食後の入浴は避ける。 自分の山での病気を防ぐためには、メディカルチェックを受けて、生活習慣病をコントロールし、ニアミスを避ける心がけが必要である。山での病気は9割以上、常日ごろの生活レベルの努力によって避けることが出来ると考えられる。登山に際しては、前日から過労と睡眠不足を避け、当日は体調を把握し、飲酒・喫煙をしないようにする。マイペースを守るために心拍計も有用であり、目標心拍数を(220−年齢)×(0.75〜0.8)とする。また、脱水状態になると血液が固まりやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞、肺塞栓などの原因になる。脱水は体重2%までは問題が少ないので、水分不足量を体重の2%以下になるようにする。登山時の水分消費は5ml/kg/時間と算出されている(山本正嘉氏)ので、これから体重の2%をマイナスした量よりも多く水分をとるようにする。 次に志賀尚子氏が、「山での救急蘇生法」について、講演した。一般的な心肺蘇生法については盛んに講習会が行われ、広く普及がはかられているので、是非、講習を受けてほしい。なお、最近、一般市民に自動体外式除細動器(AED: automated external defibrillator)の使用が認められるようになり、AEDも含めた講習が実施されている。AEDは現在、490gの機種が厚生労働省に認可申請中であり、認可されれば山での使用も現実的になるだろう。 山で救急蘇生法を行うに当たってまず、周囲の状況をよく確認して、救助者自身の安全を確保する。心肺蘇生法の基本的な流れは、@意識の確認、A気道確保、B人工呼吸、C心臓マッサージである(図)。 |
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意識は呼びかけや、皮膚をつねって、開眼するか、発語や四肢の動きがあるかで判断する。意識がなければ、頭を後屈させて顎先を持ち上げたり、下顎を情報へ引き上げて気道を確保する。呼吸をしているかどうかは、胸が動いているか「見て」、呼吸音が聞こえるかどうか「聞いて」、呼気を頬で「感じて」、判断する。人工呼吸は鼻をつまみ、呼気を5秒に1回、傷病者の口に吹き込む。心停止は、呼気を2回吹き込んだ後、呼吸、咳、体動があるかどうかで判断する。以前は頚動脈の拍動を触れるように指示されていたが、これは難しいので、無駄な時間を費やさないように省いて良い。心臓マッサージは両乳首を結ぶラインの真ん中を上から垂直に体重をかけて圧迫する。胸骨が3.5〜5cm沈む強さで、1分間100回の速さで行なう。人工呼吸2回+胸部圧迫15回を、4サイクル行なって、再度、循環のサインを確かめる。 出血していれば止血が必要である。約5分間、指か手でしっかり止血してから包帯や三角巾で圧迫する。全血液量の20〜30%以上出血するとショック状態になる。体位は基本的には仰向けとし、呼吸が楽に出来るようにする。意識がない場合は、うつぶせに近い側臥位にする。出血が多く顔面蒼白な場合は足を挙上させる。呼吸困難な場合は上体を起させる。気道が確保されているか、楽に呼吸ができるか、常に確かめる。体位を変えるときには頚椎の保護を念頭におく。飲食は原則的に禁止するが、これはたとえ手足の怪我であっても全身麻酔下手術の対象になった場合には経口摂取をやめて、胃を空にしておく必要があるからである。 また、低体温症、外傷、雪崩事故、被雷事故の要点は次のようである。低体温症では呼吸や脈拍を確認しにくいので、呼吸や脈拍は長めに、30〜45秒間、観察し、蘇生が必要かどうか判断する。心室細動を起しやすいので、手荒く動かさないようにする。外傷では蘇生率は低いので、呼吸循環のサインがなく、外傷の程度が重症な場合は蘇生を試みる必要はない。多数の負傷者がいる場合は、呼吸循環のサインがない者は優先順位が低い。雪崩では、通常、窒息か鈍的外傷が死因になる。呼吸循環のサインがない場合には、深部体温が32℃以上か、埋没時間が30分未満なら蘇生を20分行なう。深部体温32℃未満、埋没時間30分以上なら顔面の周囲に空間が残っていた場合のみ蘇生を行なう。被雷事故では主な死因は心室細動や心静止などの心停止である(医療委員会HP医療コラム欄参照、「山」2005年8月号掲載)。 最後に、悳秀彦氏が「山での救助法」について講演を行なった。まず昨年の夏山遭難の概要を報告し、中高年者のしめる割合は78.4%であったことを指摘した。緊急度が高く蘇生を必要とする事故や病気としては、転落滑落による頭部や頚椎、背中などの外傷、さまざまな生活習慣病の悪化、熱中症、低体温症、雷事故、ハチ刺傷によるショックなどがある。山中は街と異なり、救命に不利な自然環境であり、専門的治療が受けられるまでに時間がかかり、機材が限定され、救助要請や緊急度の判断が難しい場合があるなどの問題がある。蘇生法・AEDの使用などの技術や、傷病者の固定法・搬出法などの技術を身に着ける必要がある。 「蘇生の連鎖」として、「通報→蘇生→AED→専門治療への引継ぎ」が提唱せられている。山では、「携帯電話や無線などによる早期通報→登山者による早期の蘇生とAED→円滑な救急医療サービス機関への引継ぎ」になる。心肺停止状態ではそれ以上悪化することはなく、早期心肺蘇生は「蘇生の連鎖」の重要なリンクの一つである。AEDについては学童と救急救命士の使用試験で効果に大差がなく、使用は容易である。海外では山中のAEDによる球命例が増加しており、今後、山小屋やレスキューチームなどへ設置されることが望まれる。 仲間が稜線から滑落した場合は、まず、パーティーの安全を確保する。自力救助か救助要請かについて、メンバーの力量・疲労度や、日没までの時間・天候・地理的条件などを総合的に判断して決定する。ヘリから救助される場合には、昼間ならカメラのストロボ・手鏡・救急シート・ホイッスルが、夜間ならヘッドランプ、焚き火が発見してもらいやすい。救護にあったては、現場の安全確認と感染予防が大切である。プラスチックの手袋を装着し、目・顔・口などを保護することが望ましい。手当ての後は15〜20秒間、薬用石鹸で手を洗う。人工呼吸を行なう場合はポケットマスクやフェイスシールドを利用する。 転・滑落者へは、頚椎保護の立場からも傷病者の視野から目線から近づき、やたらに声をかけないようにする。搬送にはザックを連結してリフトを作る。受傷後1時間以内の手術で救命される例が多いので、救命に関係のない観察・手当ては省略し、効率よく1時間以内に専門的な治療が出来る医療機関へ移送することが必要である。スイス山岳航空救助隊(REGA)は現場へ専門医の送り込みがされ、システムとして優れている。 講演後の質疑応答では、聴衆から活発な質問がされた。講演後のアンケートでは、好評だったが、実技を希望する声もあった。 なお、本シンポジウムは「山の救急医療ハンドブック」(山と渓谷社、¥980)発刊記念講演をかねていた。本は会場でも展示され、“コンパクトで充実している”などと好評であった。100周年記念式典出席者には贈呈される予定ですが、一般書店、登山用品店、ルームなどで販売しておりますので、お急ぎの方はご購入いただければ幸いです。 |
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