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100周年記念シンポジウム"山での突然死を考える"開催される
医療委員会

 医療委員会は2005年1月20日に東京体育館において、日本山岳会100周年記念事業の一環として、"シンポジウム山での突然死を考える―その具体例と防ぎ方―"(世話人:野口いづみ、貫田宗男)を開催した。中高年登山者の増加に伴い、身近に登山中の突然死に遭遇する機会もまれではなくなった。前半は国内外の突然死の具体例を示し、回答者の医師がコメントをし、後半は突然死の防ぎ方の講演をした。会場では日本山岳会の会員内外の150名近い参加者が熱心に耳を傾け、山での突然死への関心の深さを示していた。
 講演は、貫田氏の開演の挨拶後、増山茂氏による、突然死の概要についての説明から開始された。「突然死」とは、「それまで死に至ることが予想される疾患がなく症状の発生から24時間以内の、事故や自殺でない死」と定義されている。突然死の原因は心臓が66%、脳血管障害が14%、大動脈の破裂8%(統計によっては心臓病53%、脳卒中35%)と、血管の病気で多い。リスクファクターは高年齢、男性(女性の2倍)、高血圧、高尿酸値、肥満、低コレステロール、心疾患、ヘビースモーカーなどであるという。
 次に、堀井昌子氏が、現況を説明。現在、70%の登山者が中高年であることと、最近、10年間で遭難事故者数は2倍になったが、中高年はその75%をしめ、死者・行方不明者にいたっては93%になっている現況を示した。遭難の原因は滑落、道迷い、転落、病気の順で、病気は5位であり、突然死の範疇にはいるものが多い。また、ヒマラヤ登山の死亡事故では、1980年代は中高年者のしめる割合は7%弱だったが、1990年代は38%と高い数値を示してを占めており、高齢者が高峰に登っていることを反映している。運動中の突然死は85%が男性、運動量は関係なく、62%は健康に自信があるが、27%で病気を持っている。スポーツ種目別では登山は第5位、6%である。
 続いて堀井氏は国内突然死を6症例を提示し、内藤広郎氏(消化器外科医)、橋本しをり氏(神経内科医)、上小牧憲寛氏(循環内科医)が、それぞれ専門の立場から死亡の原因について推測した。
 一例目は、65歳の健康な男性で、梅雨の晴れ間に丹沢を登山中、2回目の休憩後、10分ほど歩いて崩れるように倒れ、意識消失、心肺停止したという症例であった。内藤氏は、「下痢などの脱水が絡んでいたのでは」、橋本氏は、「虚血性疾患や脳梗塞は考えにくく、崩れるようにということからすると、ドロップアタックしており、脳幹部の梗塞が考えられるが、不整脈も考えられる」、上小牧氏は「脳幹の出血の場合もあるが、健康診断でも心筋梗塞は症状がない場合もあり、心臓の可能性もある」と答えた。検死で「脳梗塞」と診断されたという。
 また、次の症例は63歳、男性で、5月下旬の山行の下山中に脚がつりはじめ、15時ころに足がもつれて倒れ、"胸が苦しい"と訴え、口から泡状のものを吐き、意識消失。心肺蘇生し、ヘリで病院へ収容されたが死亡というものであった。内藤氏は、「脚がつったことから、熱中症がからんでいたか、脱水気味になり血液粘度が増して心筋梗塞」、橋本氏は「長い間歩いた後の状況、足がつったなどから電解質異常か脱水から心筋梗塞」、上小牧氏も心筋梗塞と考え、実際、心筋梗塞が疑われたということであった。さらに、70歳、男性の急性心筋梗塞例の後、原因不明とされた1例が報告された。これは55歳、男性で、6月に前夜出会い付近で幕営、翌日、雨の中、沢を遡行中にルートを失い、稜線上でツエルトなしのビバークをし、翌朝5時に行動を開始したが、まもなく足元がおぼつかなくなり倒れたということであった。身動きがままならない体位で長時間過ごしたことによる肺塞栓症、いわゆるロングフライト症候群(エコノミー症候群)か、急性心不全が疑われるということだった。また、60歳の狭心症のある男性で、親睦登山の前夜登る予定ではなく深酒し、翌早朝、予定変更して睡眠不足まま出発、2ピッチ後に"苦しい"と言って倒れて意識消失、ニトログリセリンは奏効せず、病院へ搬送されたが急性心筋梗塞にて死亡した。飲酒による脱水で心筋梗塞を起こしたと考えられる。飲酒は脱水をもたらすので、前夜の深酒は禁忌であり、深酒をした翌日は登山しない注意が必要であろう。最後に、分水嶺登山で生じた事故について触れた。67歳、男性であり、高血圧、尿酸血症で通院中であった。最後尾を歩いていたが、山頂に来ないので仲間が戻って倒れているのを発見した。ヘリで搬送されたが、死亡が確認された。急性心不全と診断された。
 6件を総括すると、死因は、脳梗塞と急性心不全が各1例、急性心筋梗塞が3例で、不明1名であった。全員男性で、55歳以上、既往症については、ないと判明していた者は1名で、不明が2名、3名は高血圧症、狭心症、高尿酸血症などがあった。1例をのぞいて、午前中に発症したことが特筆され、午前中が要注意であることが指摘された。堀井氏は最後に、中高年登山者はメディカルチェックが必須であることを強調し、潜在的基礎疾患が顕在化する誘因である「睡眠時間が短い、不規則」、「ストレス」や「身体活動時間の過剰」などを避ける配慮が必要であると述べた。
 さらに、増山氏が、国外症例について、まず、山で起こる突然死は通常起こる突然死と構造的に共通していること、スイスのスキーャーでは突然死の原因は共通しているが症例数は5倍くらいあることを示し、日本でも突然死症例が増加する可能性を示唆した。
 コメンテーターとしてガイドの近藤謙司氏が、昨年5月にエベレスト登頂後に8600mのセカンドステップで突然死した症例の提示した。懸垂下降中にアイゼンの爪がロープに引っかかって転倒し意識不明となったのでただちに酸素吸入や人工呼吸による蘇生法を行ったが救命されなかったという。原因は不明とされている。
 続いて増山氏が海外高所7症例についての症例提示を行った。回答者は、神尾重則氏(胸部外科医)、塩田純一氏(神経内科医)、志賀尚子氏(救急医療医)が担当した。
 1例目は「40才代男性、充分順化期間をとった登山隊の医師、カラパタール(5600b)での順化登山の際、強烈な頭痛を経験、鎮痛剤で改善。5000bまで下り一晩過ごす。翌日BC(5300b)に帰着。疲れたとこぼす。当夜、小水に何回か起きているのを確認。朝4時うめき声を隣のテントで聞く。8時30分朝食に起きてこず。10時、うつ伏せになり口からアワを吐いて、失禁した状態で死亡しているのを発見」に対して、神尾氏「口からアワなので肺水腫か、頭痛があるのでクモ膜下出血の疑いも」、塩田氏「クモ膜下出血」、志賀氏「低酸素なので、心臓の可能性もあるかも」の回答があった。カトマンズにおける浜口欣一氏による剖検の結果、クモ膜下出血であったという。
 さらにキリマンジャロでの報告が2例あった。60歳代後半の男性の場合は、毎日の歩行状態は良好で食事もよく食べ、4701mの山小屋での夕食、夜食も普通にとり、午前一時に山頂に向かったが、先頭から遅れ始め、4900mで「少し休みたい」と言って2時15分頃倒れ、脈拍など完全に停止、死亡した。60歳代の女性の場合は、毎日の歩行は良好で、先頭を歩いていた。4701mの山小屋での夕食、夜食も普通にとって、午前零時に山頂へ向かったが、零時30分頃、突然転倒して歩行困難となり、小屋に運びおろしたが死亡した。
 さらに、60歳代の男性はアコンカグア山頂からの下山開始直後に背中の痛みを訴え、30分後に歩行困難になり、続いて意識消失、心拍停止をきたし、死亡した。これらのキリマンジャロとアコンカグアの3症例では回答者のコメントと現地で示された診断が食い違っていたことから、現地で剖見に基づいて死因とされたものは必ずしも正確なものではない可能性が考えられた。
 最後の症例は、60歳代の女性で、ヒマラヤトレッキング中であった。SpO2値が4000mを越えてから、一人外れて低下していた。下肢静脈瘤があり、足が何度もつっていた。BC(4900m)到着3日後に本隊はメラピークへアタックしたが、本人はBCに残っていた。起床後,胸部痛を訴え、その1時間後、シュラフに入ったまま死亡しているのを発見された。回答者は全員肺塞栓とし、診断とも一致した。
 増山氏は、死因は病理学的に解剖しないと推察の域を出ないので、結局不明の場合もあり、海外の高所登山中であれば一層難しく、少なくとも心不全や高山病のような暖味な病名は排除していくべきだと述べた。また、高所における特殊な因子である、「低酸素・低体温・脱水・低血糖」が背景にあること、さらに突然死には「急激な交感神経系の亢進、脱水、寒冷、凝固線溶系の変化」が関与している可能性があり、特殊な環境であり、別な対処を考える必要があると述べた。
 最後は、高山守正氏(心臓救急医)が、突然死の防ぎ方について、豊富な資料を駆使して、講演を行った。瞬間死の98%、発症後1時間以内に死亡する場合の84〜88%、24時間以内の75〜78%が、急性心筋梗塞を代表とする心臓病である。突然死は、日本では1年間で1000人に1人起こるが、欧米では2倍である。男性が女性の2倍である。登山者では2.3人と考えられる。心肺停止は、呼びかけに応じない、脈がふれない、息を吹き込んでも反応しないなどの状態にある。蘇生を20分続けても医師が生命反応がない場合で、それまでに原因となる疾患や外傷がなく、24時間以内に死亡した場合に突然死とされる。病院へ搬送されて心肺停止していた患者では、急性心筋梗塞が約半数44例をしめ、以下、大動脈化解離11例や不整脈7例がつづくが、心筋梗塞が圧倒的に多く、突然死に占める重要性が高い。米国では150万人/年生じ、死亡率は30%である。病院入った人の死亡率は10%以下だが、半数は病院到着前、発症1時間以内に心室細動で死亡する。日本では、約6割が血管性疾患で、全体の約半数が虚血性心疾患などの心臓病である。発症から心停止までの時間経過は、瞬間死は、急性心筋梗塞、心筋症、大動脈弁狭窄、肺塞栓、不整脈などであり、心臓を主とするものがほとんどである。突然死は寒い時期に多く、朝と夜の8時頃に多い。自律神経が関与しており、自律神経(ベータ)遮断薬が防止効果がある。東京消防庁の心肺停止した8310人についての統計では、倒れた人の脇の人(バイスタンダー)による蘇生が14.3%で行われた場合で救命率は約6%、蘇生法が行われなかった場合は85.7%であり救命率は4.4%であった。社会復帰は前者で2%、後者で0%であった。脇にいる人が蘇生法をするということは重要である。胸痛をきたす疾患は急性冠症候群といわれるもので、冠動脈が閉塞する、急性心筋梗塞、不安狭心症などがある。冠動脈は1/3流れていれば症状がないが、粥腫が破れると10分で心筋梗塞になってしまう。急性心筋梗塞の死亡率は20年前は25%位だったが、現在、自分たちの症例では7,8%と良くなっている。しかし、35%は病院到着前に死亡しており、山で起こったら助けられない。
 心臓死はどこで起こっているかというと、睡眠中、食事中、安静中などの自宅で朝方が多い。なぜ死亡するかと言うと、心室細動を起こすからである。心室細動はただこまかく震えるだけの、死亡の原因になる最悪の不整脈であるが、これを起こした場合、電気ショック除細動をすることが必要である。電気ショックは1分遅れるごとに成功率は7〜10%づつ低下する。3分以内なら6〜7割の人は戻せる。できるだけ早く電気ショックをかければ、生存率や社会復帰率は飛躍的に増える。最近はAED(自動体外式除細動器)という、自動的に電気ショックをかけられる器械が普及し、一般人にも使用できるようになった。2001年には日本でバイスタンダーが蘇生法を行った場合、蘇生率は8.4%であったが、米国では一般市民が蘇生法と除細動ができ、58%が社会復帰できた。日本では病院外の生存率が低く、一般市民の意識の向上と除細動器の普及が必要である。
 一般社会でも心肺停止が起こったときの社会復帰率は低いので、山で起こった場合には、蘇生、迅速な搬送、社会復帰までの回復は難しい。そのために、心肺停止を起こさないように健康管理をすることが最も重要である。心肺停止への進展を防止(前兆を捉える)、起こった場合に診断と治療をすることである。山で心肺停止が起こった場合、心臓マーサージで拍動が戻る可能性もある(無脈性心室頻拍、無脈性電気活動)。心室細動と無脈性心室頻拍は除細動で戻せる。応援を集め、人工呼吸と心臓マッサージをして、電気ショックをかけて、専門的治療につなげることが必要である。山小屋に除細動器を置いた場合、毎日1000人以上来るところ、例えば室堂におくと、年に1、2名助けられるかもしれない。
 ひどく胸が痛く苦しんでいる人への対処法は、医療機関では酸素、点滴をして、心電図つけて、ニトログリセリンスプレーして、モルヒネを投与するが、山ではできない。山での対処法は、安静にする、保温、ヘリを呼ぶ、酸素をすわせる、ヘリを呼ぶ。ニトロ剤を1錠舌下に投与して(血圧が低い場合には足を高くする、ニトロ舌下錠は15〜20分くらいしか効かない)、アスピリンを噛ませる(血栓形成を防止する、20分位で血液のさらさら度が増す)、などである。
 自覚症状のポイントは呼吸困難、冷や汗があれば広範囲な心筋虚血を疑い、めまいがあれば血圧低下や不整脈を、動悸は不整脈を疑う。心筋梗塞の前駆症状は50〜60%にある。狭心痛(胸がしめつけられるような痛み)に他の症状(呼吸困難・息切れ、冷や汗、吐き気・嘔吐など)である。狭心痛だけの場合で37%、そのほかの症状のある場合で51%で起こるが、4割では前駆症状がない。
 心臓突然死を起こしやすい人では心疾患などの基礎心疾患が見られる場合が多く、検査によるハイリスク群の同定が必要である。防止策としては原因疾患の治療(薬物治療、カテーテル治療、外科治療)、埋め込み式除細動器など)をすることである。急性心筋梗塞・血管病の発症を予防するためには、生活習慣病をコントロールすることであり、定期的な健康診断が重要である。自分が183名の40歳以上中高年登山者について調べたところ、男性で危険因子を1つ持っているものは41%、2つは17%、なし42%、女性ではもっと少なかった。約半数が何らかの基礎疾患・既往疾患を持っており、薬物内服中の者も20%いた。心疾患のある者は登山をしてもよいかどうかについては、心臓突然死のハイリスクか否かの判定をまずする。どのような登り方かをしたら良いかについての定まった基準はないが、心疾患患者の運動指針があるので、それにもとづいて判断する。
 最後に高山氏は突然死を防止するために、「定期的な健康診断を受ける」、「担当医と良いコミュニケーションをもつ」、「体力や健康度に見合った計画を立て」、「日頃の運動」や「必要な薬の服用」などに注意して、自己管理することも重要であると述べた。登山に際しては、「無理をしない」、「引き返す勇気を持つ」、「内服薬を忘れない」、「脱水と塩分過多に注意する」し、「いつもの体調と比較する」ことが必要であるとして、講演を終了した。
 追加発言として、高山氏は、心筋梗塞が突然死を起こしやすいということで中心にまとめたが、そのほかに脳血管疾患や大動脈の疾患も重要であると述べた。増山氏は死亡原因をはっきりさせることが他の人のためにもなると語った。堀井氏は結構重篤な心疾患を持っていてもハードな登山をしている者がいるが、誰でもまねできるものではなく、自分の体を知ることが必要と述べた。
 さらに、会場の大森薫雄氏が、"山で起こっても仕方がないと理解している。行くなとは言えず、アドバイスをきいて注意すれば登れると言うことで登ってほしい。マイペースで登ることが重要。メディカルチェックで自分の体を認識して、楽しんで登るということが一番重要である。登ってはいけない病気であると自分で思ったら、登らないほうがよい場合もあるでしょう。いろいろな立場で山を楽しんでほしい。"という発言をした。閉演の挨拶を野口が行って終了した。
 講演後のアンケートでは幸いおおむね、好評であった。講演会を続けてほしいという希望も多く、今回のテーマ以外には、救急蘇生法、高山病、トレーニング法などに関心がある模様であった。医療委員会へのHPのアクセス件数は1日平均100件を越え、日によっては200件以上となり、登山医学への関心の高まりが感じられる。現在、医療委員会では"登山の救急医療ハンドブック"の作成中であり、これらの声も反映させた内容とした。また、出版記念を兼ねて100周年記念シンポジウム続編として、"山での救急蘇生を考える"を7月4日に開催することとした。詳細は本HPと「山」5月号に公示の予定である。なお、突然死シンポジウムでは事前募集で満席となり、せっかく、お申し込みいただきながら参加をお断りしなければならなかった方々には心苦しく思っています。是非、7月のシンポジウムにはご参加いただきたいと考えております。




  

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