![]()
34-709号
| 高所登山と男性の子作り |
奥村昌央
|
ヒマラヤ遠征後に子供を得たいと希望するものにとって、生まれてくる子供に影響があるかどうかは大変気になるところである。今回、カラコルムの高所登山に参加し男性の生殖機能に及ぼす影響について検討する機会があり、興味深い知見が得られたので報告する。 対象は某県の山岳連盟マッシャーブルム峰(7821m)登山隊に参加した健康な男性隊員3名(20〜30歳代)であった。3名とも行動中に酸素吸入をしないで標高6700m(キャンプ2)以上を経験し、標高6100m(キャンプ1)での滞在は7〜10日、標高5100m(ABC)での滞在は10〜12日であり、総登山活動日数は40日であった。3名について、登山の出発前と登山終了後1ヶ月目、3ヶ月目、2年目に精液検査、内分泌検査などを行なった。その結果、精子数と精子運動率はいずれも1ヶ月目に減少したが、3ヶ月目にはほぼ回復していた。 一方、精子の奇形率はいずれも1ヶ月目で増加し、3ヶ月目ではほぼ前値に戻っていた。内分泌検査では血中男性ホルモンが1ヶ月目、3ヶ月目とも減少しており、それと平行するように勃起障害が生じていた。2年目の検査ではいずれも登山前の状態と変化なく、長期に及ぶ生殖機能障害はないと考えられた。登山活動中にパルスオキシメーターで測定した動脈血酸素飽和度は、標高6100mではいずれも50%台であり、さらに高度が上がるとそれ以下になっているものと推測された。体重は1ヶ月目では出発前に比べて3.5〜6.5kg減少していた。 高所登山による生殖機能障害は、低酸素による精巣組織の直接的な障害と、ストレスによる間脳下垂体系を介した間接的な障害が考えられる。障害の程度は高度や滞在日数にもよるが、一般的には時間の経過とともに回復するものと思われる。 今回の研究では遺伝子異常の発現まで検討できなかったが、精液所見で検討する限り、男性の子作りは登山から戻って少なくとも3ヶ月間は控えた方が良いと思われる。ヒマラヤ遠征後に子供を得たいと希望する場合には、できれば遠征前後で精液検査を受けることをお勧めしたい。 (本稿は第19回日本登山医学シンポジウムで発表され、High Altitude Medicine & Biology 2003,4(3)に掲載された論文の要旨です。奥村氏は本研究によって平成16年度日本登山医学会奨励賞を受賞されました。)
|
![]()
Copyright (C) 2004 The Japan Alpine Club The Committee of Medicine,
All rights reserved.
![]()