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691号

アセタゾ−ルアミド(ダイアモックス)についての理解

中島 道郎

(16)アセタゾ−ルアミド(ダイアモックス)についての理解

 高所登山を志す登山家諸氏の間に、アセタゾ−ルアミド(以下ダイアモックス)に関する知識が広まっているのは結構であるが、どうも自己判断に基づく勝手な解釈がそれぞれに独り歩きしているようで不安である。そこで改めてここに、ダイアモックスとはどういう薬であるかということを解説しておきたいと思う。

 国際登山医学会(ISMM)のホームページ (http://www.ismmed.org) には、Mountain Medicine Information Center(登山医学情報センター)という窓があり、その中のWritten for Non-Physician、Altitude Tutorial(非医師のための高所医学講座)を開くと、そのちょうど半ばあたりに”Acetazolamide”の項目がある。よくできているので、それを簡単にご紹介しよう。

 ダイアモックスは、腎臓から重炭酸塩の排泄を促し、体液を酸性にするので、過換気(低酸素環境においてより多くの酸素を取り込もうとする努力)の結果たる呼吸性アルカローシス(体液アルカリ化)を是正し、呼吸を促進させる作用があり、それによって、高所に普通にみられる睡眠中の間歇呼吸を緩和する。
 いまひとつは、脳髄液を酸性側に保ち脳浮腫を軽減する。それが、本剤が高山病に効く、とされる根拠である。ただし本剤は魔法の薬ではなく、普通24〜48時間かかる高所順応獲得を12〜24時間に短縮する、といった程度のものと心得ておいていただきたい。

急性高山病に対する標準的用法・用量
●予防的使用・・・125mg 就寝1時間前服用。症状出現高度以下に降りるまで続行。
●治療的使用・・・250mgずつ1日2回毎12時間服用を推奨。症状寛解すれば中止してよい。
●小児の場合は2.5mg/kg 体重。

 本剤は硫黄を含む薬剤なので、硫黄化合物にアレルギーの人は飲んではいけない。
 副作用として一般的なのは、手・足・口唇のシビレ・ジンジン感・震え、ときに味覚の変化・耳鳴である。まれに嘔気・頭痛、極端な例として霧視の報告がある。いずれも不快なだけで有害な症状でなく、服薬中止で回復する。中に頻尿を副作用として訴える人があるが、それは逆で、本剤はもともと利尿剤だから頻尿があって当然である。

ダイアモックスにまつわる『言い伝え』あれこれ
・ 本剤は高山病症状を隠す

 高山病に陥っているのに症状が現れないために、知らぬ間に重症化していた、ということはありえない。高山病に陥れば必ず症状は発現し、症状がなければそれは高山病ではない。本剤服用の有無に関係はない。

・本剤は登高中の高山病の悪化を防ぐそんなことは決してない。本剤を飲んでおれば、高山病状態を押して登高しても大丈夫というこの言い伝えを信じて、高所脳浮腫・高所肺水腫に陥った人は、数知れない。

・ 本剤は急速登高に際し高山病発症を予防する

 これは言い伝えというよりはむしろ、一部本当なのだが、それが過信されている面があるのが問題である。すなわち、本剤が高山病の発症を抑えるのは確かで、それが強制的登高(救助に向かう場合など)における本剤使用の推奨理由であるが、絶対ではない。本剤を飲んでいれば、急速登高に際しても重篤な高山病に陥る危険性はない、と信じるのは愚かである。飲んでいても急速に高度を上げると高山病に陥ることはあるし、しかもそれは急速に発症して重篤化し死に至ることすらありうる。

・本剤の服用を中止すると症状が悪化する

 そういうことはない。本剤にはリバウンド(跳ね返り)作用はなく、やめたら飲まないのと同じに戻るだけのこと。飲んでいても症状が続くようなら、良くなるまでもうちょっと時間がかかる、ということであり、もし症状がなくなっていれば、順応したのでもうこれ以上飲まなくてもいい、ということである。

(筆者註) 用法・用量についてはいろいろな説があり、一般登山家を悩ましている。特に予防的用法は曖昧で、一向に要領をえない。筆者は常々次のように教えている。

○  高山病をむやみに怖れるな。予防・予防と思い悩むな。高山病を経てこそ順応があると思え。症状は人・時・場合により異なるが、必ず軽症から始まり、いきなり重症型(高所脳浮腫・肺水腫)ということはない(「言い伝え(3)」の強制的急速登高の場合でも、急性発症に備えて出発前の250mg服用は意味があるが、発症した場合、重症化する前に必ず軽症期があるので、直ちに下山すること)。

○  高所泊に際し、朝起きて頭痛がしたら、罹ったと思い、できるだけ大量の水分と頭痛薬、そしてダイアモックス250mgをここに書いてあるように飲め。楽になるまで、できるだけ動くな。それでほとんどの例がなおる。またもし、さらに高所滞在を続けるつもりなら、125mg眠前服用、を続けるのもよいだろう。