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688号

高所登山と水分

塩田 純一

(13)高所登山と水分 

 高所に登る時にたくさんの水分を摂るということは半ば常識になっている。従来の欧米の教科書によると、1日数リットルから10リットルと書いてあるものまでさまざまである。

 高山病に関しては、日本ではハウストンとハケットの教科書が有名で、翻訳もされている。
 そのハケットが昨年が“N Engl J Med”という医学会では世界的に権威があり、日本でもほとんどの病院で読まれている雑誌に高所障害の総説を掲載した。その中で水分の問題にはあまり触れられておらず、「水分を余分に摂ることが高山病を予防するという科学的根拠はない」とだけ記されていた。たくさんの水分を摂ることが高山病の予防につながると考えていた我々にはいささか驚きの表現であった。3カ月後の同誌にカトマンズの医師からの反論が掲載され、脱水症状は高山病の症状に類似するし、高山病の悪化を助長するので我々は水分を適度に補給することを勧めていて、目安としては尿が透明に維持できる程度の量だとの意見を述べている。
 これに対しハケットは高所では脱水になりやすいが、高山病と水分の科学的因果関係は認められていないとの答えであった。

 これらの論議をどう解釈するか難しいところではあるが、運動生理学の立場からは高山病はともかくとして脱水は多くの代謝障害を引き起こし、さまざまな問題を引き起こしかねないのは確かである。高所に上がり、乾燥寒冷地でハアハアと過呼吸になると毎時0.2リットルもの水分が呼吸に失われることもあり、十分な水分摂取ができない環境にある登山者は脱水に陥りやすい。

 我われ日本人は食事から摂る水分量が最も多く、高所では通常の食事より携帯食品や乾燥食品など水分含有量が少ない場合が多く、またお茶を飲んだり清涼飲料水を買い求めたりする機会も少なく、一般に水分摂取量が低下する傾向にある。このことから尿がクリアに保たれるように多めの水分を摂りながら登山し、一方で脱水の危険はないところで5リットルも10リットルも教条的にむやみに水分を摂ると、水中毒になるなどかえって危険であると考えるのが妥当であろう。