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686号

登山とVAAM

阿部 岳

(11)登山とVAAM 

 VAAMはVespa Amino Acid Mixtureの頭文字をとったもので、Vespaとはスズメバチ属の学名である。山裾の大きなクヌギに群がっている、あの巨大で凶暴ですばしこい、疲れを知らない働きぶりの蜂の生命保持に不可欠な、何と幼虫からもらう栄養液の主成分である。これは17種類のアミノ酸の特異なバランスで構成され、特にプロリン、グリシン、スレオニンの含量が多く、ミルクやたまご、肉などとは全く異なったアミノ酸組成を示している。

 マウスにVAAMを飲ませると、水やブドウ糖やミルク・ガゼインと同じアミノ酸組成物を飲ませた場合に比べて、遊泳時間が有意に長くなる。これは運動に伴って増加する疲労物質の乳酸生成が抑制され、疲れにくい上に血中のブドウ糖の減りも少ない。運動時の血糖の維持は脳の機能保存に不可欠である。

 これらのことから乳酸を生成しない高カロリーの脂肪がエネルギー源となっていることが、血中脂肪酸の増加で判明した。これを上手に使うとダイエットにも有効である。さらに、ヒトでは実験動物と同様の脂肪燃焼作用だけでなく、呼吸症の低下、血中アミノ酸の運動に伴うアンバランスを抑え、恒常性を保ち、さらに運動負荷に伴う心拍数の上昇抑制やコルチゾールを抑制し、運動ストレスの緩和が見られた。

 このほかにも、最近の研究から肝機能や腎機能そしてエネルギー代謝効率の向上を示唆するなどさまざまな結果が出て、VAAMの多機能性が明らかになってきた。一方、商品として市販されているVAAMの反復使用で、シドニー・オリンピックの女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子選手など、トップ・アスリートのパフォーマンスの向上、健常人の体脂肪率の低下、血中コレステロール、中性脂肪など種々の脂質因子の低下が報告されている。

 登山は全体を見れば多くの場合、持久運動であり、有酸素呼吸運動であるから、VAAMの脂肪燃焼作用がエネルギー生産の助けになり、登山時の心身の疲労回復に役立つものと思われる。実際、たくさんの人が山登りにVAAMを使い、技量の上下に関係なく、全ての登山者がVAAMの持つ多機能性から顕在的か潜在的の違いがあっても、さまざまな作用を感じている。とくに、空腹を感じる登山はVAAMの摂取には良い条件で、効果も出やすいと思われる。登山はまた寒冷と高所に対する適応が要求されるが、これらの適応とVAAMの作用については今後の研究を待たなければならない。また、山に限らず、海における遭難など飢餓の伴う極限状態の危機にも、VAAMの有効性がかなり期待できる。

 注:阿部岳氏(理化学研究所・先任研究員)は非会員ですが、本年1月29日の医療委員会で、VAAMの発明者として「スズメバチ栄養液に見られるアミノ酸混合物(VAAM)の機能性」の講演をしていただきました。本稿はその要約です。
                               (医療委員会 大野秀樹記)