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09-684-B





常圧低酸素の可能性

貫田 宗男

 本誌のClimbing & Medicineの欄で、大野秀樹先生が書かれた「登山隊員は遺伝子で選
別される?」の内容は、高みを目指す者にとっては衝撃的であった。
 確かに、いわゆる高所に強い人弱い人がいることは経験的に知っていたし、シェルパ・
ガイドやキリマンジャロ山のガイドたちが、アジア人は欧米人に比べて高所に弱いと話し
ているのを、何度か聞いたことがある。
 しかし高所を目指す登山者たらんとする人が、検査の結果「あなたのACE遺伝子は、高
所に弱いDD型ですよ」などといとも簡単に宣言されてしまったら、トレーニングをする
気も失せてしまわないだろうか。
 もちろん酸素無補給登山にただ憧れ、自分の実力も認識せず、やみくもに高みを目指し
た揚げ句、無駄死にするような事例は防げるかもしれない、と思ったりもするのだが……。
 それでは体質的に高所に弱い人にとって、トレーニングの効果は全く期待できないので
あろうか。これまた過去に、何百人かを高所に案内した経験からだが、高所未経験者が事
前に低圧タンクなどを使って高所体験をした場合、かなりの効果が認められたような気が
する。
 ただ一般の人にとって、施設が大がかりな低圧タンクを利用することは簡単なことでは
ない。そこで考案されたのは、施設の簡単な常圧低酸素室なるもの。窒素の割合を多くし
た空気をこの室内に送り込み、気圧は平地のままで酸素濃度を下げる装置である。
 昔は窒素ガスを混入させていたらしいが、現在では特殊な膜を利用した低酸素制御装置
が開発され安全性も高まった。そして廉価で小型のものが販売されるようになっている。
 最近、国内のあるトレッキング会社が、一度に数人が低酸素トレーニングをすることが
できるこの常圧低酸素室(商品名アルティキューブ)を購入し、自社の事務所に設置した。
これは高所未経験者や、高所に「弱い」人にとっては朗報であろう。
 このシミュレーションで高所に「弱い」ということがわかっても、悲観する必要はない。
トレーニング効果があるかもしれないし、事前に慎重な対策を練ることができるのだ。
 まずは己を知ること。自分が高所に「弱い」と認識しても、そこから英知を駆使し、あ
らゆる対策を講じて、そのハンディを克服する。これも高所登山、トレッキングの楽しみ
のひとつであろう。自分でたてた諸々の作戦が成功した場合、その充足感は酸素を使った
としても、酸素無補給登山に匹敵するものかもしれない。
 ちなみに私のACE遺伝子は、DD型ではないものの、高所に強いと言われるTT型でも
なく、その中間であるID型であった。次回、高所に登る際には、この常圧低酸素室でのト
レーニングを、ぜひ試してみようと思っている。


   

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