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683号

高山病予防と高所順応トレーニング

浅野 勝己

(8)高山病予防と高所順応トレーニング  

 6000m以上の高峰登山者の43人のうち1人は生還できないことが、毎年繰り返されている事実を深刻に受けとめ、この2.3%の致死率を低減させるために、登山界はこの対策に真剣に取り組まねばならないと考える。   
 高峰登山者の遭難死の主な原因である雪崩および滑落も、その根底には低酸素による高所障害が関与していることから、とくに低酸素環境に対する耐性(防衛体力)をより一層高めることが重要な課題である。このための対策のひとつとして高所順応トレーニングの意義が指摘されてきている。そこで近年の研究成果をもとに、本トレーニングの高山病予防に貢献する可能性を2項目について紹介してみたい。

1. 浮腫発症の予防効果

 急性に6000m相当高度に滞在し、30分間の軽度ペダリング運動を行った際の一流登山者と、一般登山者の内分泌応答と尿量変化を比較した。その結果、一流登山者では運動後のストレス性ホルモンの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)および抗利尿ホルモン(ADH)は、その増加はわずかであり、比較的多量の排尿が見られるが、一般登山者ではACTHおよびADHは顕著な増加を示し、尿量が極めて少ないことが明らかになった。
 したがって、一流登山者では浮腫が起こりにくく、肺水腫などの高山病発症のリスクが低いことが考えられるのに対し、一般登山者ではそのリスクの比較的高いことが示唆される。
 そこで6000m相当高度において、30分間の軽度ペダリング運動を約3か月間にわたり8回行う高所順応トレーニングを行い、内分泌応答を一流登山者と一般登山者について比較した。この結果、一流登山者ではトレーニングの初期には顕著な分泌亢進を示すが、トレーニングの継続とともにその応答は減弱化することが明らかとなった。これらの成果から、一定期間の高所順応トレーニングは、低酸素環境における運動時のストレス性ホルモン、抗利尿ホルモンを減弱化して尿量増大をもたらし、肺水腫や脳浮腫などの高山病予防に貢献する可能性が示唆される。

2. 心血管系の改善効果

 肺水腫の主要因は肺動脈圧の増大とされている。高所順応トレーニングではこの肺動脈圧の低減をもたらし、運動後、心拍数と収縮期血圧との積の二重積(心筋の酸素消費の指標)を軽減させることから、体内でもっとも酸素不足に弱い心筋の耐性向上が期待される。

 これらの結果は、高峰での2.3%の致死率を低減することに大きく貢献するものと思われる。