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高山病発症時のダイアモックス以外の利尿薬投与について


Q.2  高山病発症時のダイアモックス以外の利尿薬投与について
2004/04/18 菅野 明彦 さん
 高山病などの症状が出た際、もしくは予防的にダイアモックスを投与することは比較的よく知られておりますが、ダイアモックス同様に利尿作用のあるラシックスやフルイトランなどでも代用することが可能なのでしょうか?
 ご教示のほどお願いいたします。



A.2
 ダイアモックス(一般名アセタゾラミド)がなぜ高山病に効くのかについては、『山 医療コラム』欄16(691号2002年12月号)(中島道郎)に詳しく書かれておりますので、ご参照ください。
 今回の質問に対して中島氏は次のように答えています。
 『ダイアモックスは脳脊髄液を酸性側に傾け、脳浮腫を軽減させるから効くのであって、利尿作用によるのではない。従って、高山病にはダイアモックスが効く→ダイアモックスは利尿剤→どの利尿剤も高山病に効く、という理屈は成り立たない。それは、心筋梗塞にアスピリンは効く→アスピリンは解熱剤→どの解熱剤も狭心症に効く、という理屈が成り立たないのと同じです。』
 このお答えは多少、専門的かもしれませんので、補足します。
 ダイアモックスは弱い利尿剤でもあることから、利尿剤が高山病に効くと考えられるようになりました。しかし、これは主に我が国で信じられている迷信、あるいは誤解ともいえるもので、困ったことです。高山病に効果があるのは、利尿作用によるものではありません。
 ダイアモックスは腎臓からアルカリ性の重炭酸塩の排泄を促進させて、体液を酸性に傾かせます。その結果、高所で過換気状態からアルカリ性に傾いていた体液を酸性側に引き戻し、換気量をおだやかに増加させることができます。また、脳脊髄液も酸性側に傾け、脳浮腫を軽減させる効果があります。このようなことから、高山病に効果があると考えられます。
 他方、数年前に日本のカラコルム登山隊に同行していたキッチンボーイが肺水腫で亡くなったことがありました。その折にスイスの医学調査隊が助けてくれ、日本隊に持参している薬について尋ねました。「重篤にはラシックス、軽症にはダイアモックス」と答えたところ、スイス隊医師(Dr. Durrer?)は大変驚いて、「肺水腫にはニフェジピン、脳浮腫にはデキサメサゾンが世界の常識だ。ラシックスなんてもう使わない。どうして知らないんだ」と言ったとの由です(貫田医療委員私信)。
 今年の2月末に日本山岳会医療委員会で講演をされたDr.Budda(ネパール・国際山岳連盟医学委員会委員長)も、高山病の治療薬として、「軽症ではダイアモックス、中程度ではダイアモックスとデキサメサゾン、脳浮腫では多量のデキサメサゾン、肺水腫ではニフェジピン」を、それぞれ挙げ、ラシックスについては治療薬として挙げることさえありませんでした。Dr.Buddaの講演(『新しい高山病の考え』)の要旨は、追って、『山医療コラム欄』に掲載の予定です。
 ラシックス(一般名フロセミド)やフルイトラン(一般名トリクロルメチアジド)は利尿作用が強く、尿の排泄を増加させて脱水を招き、電解質(ナトリウムやカリウムなど)のバランスを崩して体調の悪化をもたらす場合があります。このように弊害が多い薬で、肺水腫や脳浮腫などのはっきりした障害がある場合に、医師が救急薬として使用する場合があるという程度のものです。専門外の方が検査ができないような環境で使う性質の薬ではありません。つまり、ダイアモックスのように高山病の予防薬として使用するのは不適切であり、ダイアモックスの代わりにはなりません。
 なお、デキサメサゾン(商品名デカドロンなど)はステロイド薬(副腎皮質ホルモン薬)であり、抗浮腫などの効果があります。ニフェジピン(商品名アダラートなど)は降圧薬の主流をなしているカルシウム拮抗薬であり、降圧効果によって、肺における血管からの体液の漏出、つまり肺水腫を改善することができます。
(日本山岳会医療委員会  野口 いづみ)


A.2-1  ラシックスについて(ピーターハケット氏の 「高山病」 から)
 ピーター・ハケット氏の「高山病 ふせぎ方・なおし方」(1980年)の邦訳(1989年、栗山喬之氏)が手元にありましたので、多少古い面もありますが、よく読まれた本ですので、ラシックスについてどのように書かれているか見てみました。「中等症の急性高山病で、1回80mgを経口投与、あるいは40mgを筋肉内または静脈内投与するが、強い脱水をを避けるために水分を飲ませるべきである」、「脳浮腫で低地へ避難できない場合、ラシックスを20〜40mg静脈内投与するが、尿量、血圧、脈拍数をみながら行なう。脳浮腫による死亡の死因はおそらく心循環系の虚脱であり、ラシックスの使いすぎによる血液量の減少は、その過程を早めるだけである」、「高所順応がうまくいかず脱水を起こしている場合にラシックスを与えることは体力のある者を床につかせる結果になる。ラシックスを投与する場合には水分を飲ませたり、静脈内に水分を投与したりしながら行なう。水分を摂取できない脱水症の患者にラシックスを投与してはいけない」などとされいます。最後の治療薬一覧では10種の薬剤が記されていますが、ラシックスは、「医師の指示で使用」することを勧めています。以前から、使用は要注意扱いされていたことがわかります。
(日本山岳会医療委員会  野口 いづみ)



Q.2-1  返信ありがとうございました
2004/04/18 菅野 明彦 さん
 野口先生
 ご多忙のところ、ご教示ありがとうございました。
 作用機序などで不勉強なところがありましたが、大変参考になりました。
 今後も野口先生をはじめJAC医療委員会の皆様のご活躍と登山医学の発展を祈念しております。




   

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